DOCTOR'S VOICES

CASE#005高度複雑病変の症例情報をクラウドで共有

施設基準の障壁を打破する「開かれたカテーテル室」

厚生労働省に定められた「施設基準」は、医師の経験・施設の設備・使用する治療器具などについて、様々な要件を満たした施設だけが、各種高度治療を行える場所として承認されるというルールである。
2006年に中村氏が立ち上げた「オープンシステム」は、施設基準の要件に満たない病院で適した治療を受けられない患者が、技術はあっても施設基準による縛りのためその病院では治療を行えない先生とともに、施設基準を有する京都桂病院にて、桂病院スタッフと一緒に治療に取り組む画期的なシステムだ。
治療前の医師同士のやり取りで問題となってくるのは、個人情報を含む患者のデータをどうやって共有するかだ。中村氏は、e-casebookを使ってクラウドでデータを共有し、他院の医師と治療方針を検討した治療に挑む。

京都桂病院 副院長

中村 茂 氏京都桂病院心臓血管センター 所長

高度医療における「施設基準」とは

京都桂病院では、心血管・末梢血管カテーテル治療、植え込み型除細動器、カテーテルアブレーションなど、さまざまな複雑な治療の「施設基準」について、厚生労働省の承認を得ています。
例えば、高度石灰化病変の治療に使われるロータブレーターという器具に関しては、「年間200例以上の冠動脈形成術と、年間30例以上の開心術・冠動脈バイパス術をしている施設」という施設基準が定められています。ロータブレーターはバルーンでは拡張困難な石灰化プラークをダイアモンド砥粒のついたドリルで削る治療であり、専門的知識が必要です。海外では心臓外科の併設の義務はありませんが、日本では心臓外科の併設が要件に入っています。そうなると必然的に、施設基準を満たす病院の多くは、都市部の大きな病院ということになります。
問題はカテーテル治療専門医が施設基準を満たした病院で長年ロータブレーターを使っていたとしても、施設基準を満たさない地方の小規模病院に出向した場合、技術があるにも関わらずその治療ができないことになります。結果、患者さんの治療の選択の幅は、その病院で行える範囲に狭まります。医師もこれまでの経験を生かすことができず、「これが最良」と思う治療を患者さんに提供できません。本来は、すべての患者さんが高度な医療を安全に受けられるよう制定された施設基準ですが、図らずも医療格差を生むことになっているのが現状です。

「オープンシステム」による永続的Win-Winの関係

「オープンシステム」は、施設基準の要件を満たしていない他院の患者さんとその主治医が当院のカテーテル室を「共有」し、当院の専門医と一緒に治療を行う方法です。高度かつ安全に、患者さんを治療する目的として、2006年から施行しています。
従来の「転院」だと、全く知らない他院での入院・治療になり、患者さんにとって、とても不安なものでした。このオープンシステムでは、治療時に主治医が参加し、退院後はフォローアップも主治医がもとの病院で行うので、患者さんも安心して治療を受けることができます。主治医の先生にとっても、従来の「病状が気になる患者さんの転院の付き添い」だけなら、有給を使ってのボランティア状態でしたが、このシステムにおいては当院から「医師の派遣費用」をお支払いします。
施設基準を満たさない病院にとっても、これまでの「治療目的での転院先への紹介」では単なる収入減ですが、より高度な治療が提供できたことになります。さらに、施設基準に該当しないまでも治療リスクの高い患者さんのカテーテル治療を病院で行うことになった場合、急変時の対応が不安な場合も十分なスタッフで対応が可能です。
一番には患者さんのため、そして主治医、他院、当院それぞれにメリットがあるような仕組みです。お互いWin-Winの関係でないと、スムーズかつ永続的に働くシステムとなりえません。

ローカルで完結できる高度治療も重要

全国からの受け入れを開始して、年に10人くらいの患者さんがオープンシステムを利用して来られます。実際、それほど多いとは言えないかもしれませんが、数が少ないということは、このシステムの周知が足らないせいかもしれません。
単にニーズが少ないのであれば、私が目指す医療の本来の目的には叶っていると言えます。医療はローカルで完結できれば、それが一番良いと思っているからです。しかし現在、国内のカテーテル施設は約1600あり、ロータブレーターの施設基準を受けているのは約400施設で、ある一定の患者さんは十分な治療を受けられていない可能性があります。

時間や場所の制限なくデータを見直して治療判断を

オープンシステムの設立以来、どのようにデータを共有するかは、大きな課題でした。
カテーテル治療の判断を行うためには、アンギオグラフィー(血管造影検査)画像やCT画像のデータをCDに焼いて送付するのが常で、特に海外からの治療についての問い合わせなどは、CDを日本まで郵送するのに時間がかかるなど制約がありました。また、通常業務の合間を縫って、病院内のコンピューターが設置されている場所に、何度も立ち寄ってCDの中身を確かめる時間は無く、大概の医師は、画像を一瞥して治療方針のジャッジをしていました。 
e-casebookだと郵送の手間が省け時間短縮ができ、タブレット端末から自由にデータを見ることができます。1回画像を見て理解したつもりでいても、家に帰って見直すと、また新しい発見があり、より深い考察に基づく治療判断が可能となりました。
タブレット端末やスマートフォンの普及が、このe-casebookのシステムにとてもマッチしていると思います。昔は「画像を何十回と見て最善策を考えろ」などと言われたものでしたが、これが可能となり、尚且つ「コンピューターのある場所にわざわざ行く」という面倒な行為から解放されたのは大きいと思います。

ボーダーレスに情報共有

オープンシステムでは、他院の先生とのやり取りをe-casebook Groupで行っています。e-casebook は、画像に直接、問題点・治療方針・使用する道具・注意点などを医師やコメディカルの参加者全員と同時に書き込むことができるので、メンバー全員がどんな治療が行われるのか事前に理解することができます。
2014年のe-casebookリリースと同時期に利用開始して、ようやく使い方にも慣れてきました。普段はパソコンとスマートフォンでe-casebookをチェックしています。
他院にカテーテル治療に行く場合もe-casebookを使います。症例ごとに治療のポイント、アプローチ、使用デバイスを記入していくことで、参加者全員が情報を共有することができ、使用物品の準備にも応用しています。
海外のワークショップでも使用可能であり重宝しています。

埋まりつつある地方との医療格差

今はe-casebookなどさまざまな情報交換手段があり、使用頻度も増加しつつあり、地方との医療格差は埋まる方向に向かっています。とは言っても、医師の心情としては会ったこともない医師に患者さんの相談はしにくい。特に経験値が上がってくれば術者として、「紹介すると自分が技術不足のようで恥ずかしい」とか、「たらい回しにされたなど噂になったりするんじゃないか」とか、何とか自施設で治療を完結したいという想いや、躊躇もあると思います。しかしそれは、医師同士の信頼関係が成り立っていれば障害とはならず、実際にコミュニケーションをとり、信頼関係が出来てから、次の段階でe-casebookを活用していくのが最良の方法と思います。

今後のe-casebookに期待することは

e-casebookは医療データ共有に特化した、非常に高度で革新的なクラウドサービスです。より多くの医師がe-casebookを通して情報を共有し、最善の治療を患者さんに選択できるようになっていくための、より多くの人に使ってもらえるインターフェースに育っていって欲しいです。今でもすでに本サービスは世界的に使用されていて、カテーテル治療のライブなどで活用されています。今後もITに詳しくない人でももっと簡単に利用できるように、どんどんユーザーインターフェースを簡便にして欲しいです。
現在、「桂病院心臓血管センターフォーラム」という、当院での治療などを紹介する場を設けています。多くの医師に参加していただくように務めており、その反応などを見つつ、今後のe-casebook Forumの方向性を探っていきたいと思います。