CASE #10e-casebook LIVE|若手医師に術技を指導するプロクターライブ配信

タッグで挑む!「本当の」プロクターライブとは

木下 順久

豊橋ハートセンター 循環器内科 部長

若手医師が手術者(オペレーター)を務め、経験豊富なマスターオペレーターがセコンドにつき指導する「プロクターライブ」が、近年カテーテル研究会のプログラムの一つとして行われるようになった。木下氏は、当ライブでプロクター(指導医)として参加し、2019年8月にe-casebook LIVEで「(心臓血管である)分岐部病変にこだわる」というテーマのライブ配信をした。若手医師の技術の底上げに取り組みたいと木下氏は意気込む。

記事公開日:2020年4月6日
最終更新日:2023年11月20日

新しい形の手術ライブ「プロクターライブ」

2019年、豊橋ハートセンターが主催する東海ライブ研究会において、「プロクターライブ」の開催が始まりました。複雑病変の治療の経験が少ない若手医師を支援するために、若手医師がオペレータとなり、シニア医師がプロクターとして付き添い、術前検討から手術終了までをライブ中継します。オペレーター側とプロクター側の双方にオブザーバーが配置され評価が行われます。それにより若手医師は技術が向上し、シニア医師は教え方のフィードバックを受けることで教育方法を向上することができます。オペレーターとプロクターの両方の成長が実現する、新しい形の手術ライブです。

若手医師の挑戦、プロクターライブの舞台裏

最初にこのライブのコンセプトを聞いた時は、手術ライブ未経験の若手医師にオペレーターを担当してもらうことについて、万が一問題が起こったら、と考えずにはいられませんでした。ライブの開催そのものが難しいのではないかと考えたものです。しかし、実際に行ってみると、若手医師は非常に前向きに取り組んでいました。彼らの充実感に満ちた顔を見て、このような機会を与えることは大事なんだと実感しました。

2回目のプロクターライブは2019年5月の豊橋ライブデモンストレーションコースで行われました。若手のオペレーターたちは要領を得ており、過度な緊張感は少しも感じさせず、むしろやる気に満ちていました。事前にプロクターとしっかり症例検討し、手術中にアドバイスを受けながら手技を進めていくことで、若手医師たちは自身の限界を超えた治療ができたという達成感や新しい知識を身に付けた満足感を感じたのではないでしょうか。

これまで各地で行われてきたプロクターライブは、ある程度経験のあるオペレーターが選ばれており、それは本当の意味でのプロクターライブではないと思っています。プロクターも、ベテランのオペレーターでも、自分の手技を他者に教える時は情報を整理して伝えなければなりません。経験のない若手医師にオペレーターの役割を担当させてこそ、プロクターの真価が問われます。この2回目のライブでは3人のプロクターがいて、若手医師にどうやってアプローチするのか三者三様で、見ているこちらも大変勉強になりました。

複数人での事前症例検討の重要性

通常の臨床現場では、このライブのように徹底的に事前に症例検討することは稀です。もちろん、個別に相談されれば話し込むことはあります。

実は、簡単な症例でもしっかり事前に症例検討すれば、若手医師の役に立つことはたくさんあります。若手医師の多くは自己流だったり、上司の真似をしながら技術を学びますが、それでは一人前になるまで時間がかかると考えています。例えば、見よう見まねで5年かけて身に付ける技術は、きちんとした検証およびアドバイスを受ければ2年半で習得できるかもしれません。そうすることで、残りの時間をより有効に使えます。若手が一番成長する時期に、無駄な時間を過ごさせたくありません。

自分だけで考えても自分の殻を破ることはできませんが、2〜3人で話し合うと自分も思いつかない方法が出てきて治療法に幅が広がります。じっくり話し合って、一番いい方法はプランA、それが駄目だったらプランB、それでも駄目だったらプランCというように事前に戦略を立てておくと、術者は自信を持って治療に臨めます。複数人での事前の症例検討は、ライブにおいても臨床現場においても重要です。お互いが納得するまで話し合うことで、治療方針がぶれることなくスムーズに治療が進み、これが若手医師にとって非常に有益な経験になるのです。

プロクターライブをWebで生配信

ある教授から「よくあれだけ我慢して若手医師に教えられるね。私だったらすぐに取り上げて自分で治療してしまう」と言われたことがあります。「確かに取り上げるのは簡単だけど、そうすると人が育たないですからね」と上から目線で答えてしまいました。その会話がきっかけで、プロクターライブをe-casebook LIVEで配信することになり、2019年8月に帝京大学でのライブワークショップ「分岐部病変にこだわる」のライブ配信が実現しました。

ライブ配信後の感想ですが、上妻謙先生(帝京大学)と私が喋りすぎてしまい、もう少しオペレーターにフォーカスすればよかったと反省しています。高い評価を頂きましたが、配信日時が平日の診察時間帯だったため「見たいけど見られなかった」という声もありました。

e-casebook LIVEは医師を教育する媒体として、本当に素晴らしいサービスだと思います。ライブ配信中に、主催医師と視聴医師がチャット機能を使って自由に症例について議論できます。生配信に参加できない医師も多いので、さまざまな分野や治療法にフォーカスしたアーカイブビデオは、後で好きな時間に視聴できてとても便利です。

 

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ニッチなコンテンツもあればさらにe-casebook LIVEが充実

優れた手術ライブをしても、若手医師がその内容を理解できなければ、若手医師の技術の底上げは難しいと感じます。したがって、若手医師の技術底上げの観点から、日常の臨床で有用なコンテンツを積極的に配信すべきだと思います。

これは視聴率は低くなるかもしれませんが、特定の医師だけが参加するようなニッチな研究会のコンテンツを配信するのも有益だと思います。自分から研究会に参加するほどの意志がなくても、Webで気軽に視聴できるなら興味を持つ人もいるでしょう。こうしたコンテンツは予想以上に興味深いものもあり、広く知らせるためのきっかけとしてe-casebook LIVEで配信しても面白いと思います。