CASE #13e-casebook LIVE|教育ライブで手技の向上を推進

患者さんにとても良い結果をもたらすのに学びの機会が少ない術式をライブ配信で広める

岡崎 賢

東京女子医科大学 整形外科 教授

患者さんの満足度の高い術式である人工膝関節単顆置換術(Uni-compartmental Knee Arthroplasty, UKA)がある。一般的に行われている人工膝関節置換手術(Total Knee Arthroplasty, TKA)と比べると患者さんの組織のかなりの部分を温存するため、負担が少ない上、術後の違和感も少ない。医師の間で注目されている術式だが、手術手技が難しいことから、なかなか広まっていないのが現状だ。
そこでe-casebook LIVEのオリジナルコンテンツとして、この術式を広めるための教育ライブを企画。今後も整形外科医に注目されていて学びの機会が限られているテーマを企画し発信することで、教育の底上げを図りたいと岡崎氏は話す。

記事公開日:2023年9月25日
最終更新日:2023年11月20日

UKAの難しさと可能性

日本人は生まれつきO脚の人が多く、それが進行すると変形性膝関節症になります。変形性膝関節症は加齢とともに半月板(※1)のちょっとした怪我などをきっかけとして徐々に進行する関節の変性疾患で、患者数は2,530 万人と推定されています。薬や注射が効かなくなってきた患者さんに対して、(2023年)現在一般的に行われている手術治療は、膝関節のすべてを人工物に置き換える人工膝関節置換手術(Total Knee Arthroplasty, TKA)で、日本では年間10万件行われています。

一方、人工膝関節単顆置換術(Uni-compartmental Knee Arthroplasty, UKA)は軟骨がすり減った部分(主に膝の内側)のみを人工物に置き換える手術で、日本では年間1万件行われています。人工物に変わる面積が少ないので、膝の外側の半月板や軟骨も残すことができ、膝の複雑な動きを助ける十字靭帯も保存できる利点があります。UKAはTKAに比べて患者さんの回復が早く、術後の違和感が少ない、とてもいい手術です。

なぜこの術式が広まっていないかというと、手術が難しいからです。小さな傷口から手術を行い、扱う部品が小さく、挿入位置が微妙にずれるだけで術後に長持ちしなくなる心配があります。

最近は、UKAの手術の方法や、どのような患者さんに適応するかが分かってきたので、しっかり学ぶ機会があれば決して難しい手術ではありません。TKAの手術経験を持つ人工関節専門医であればUKAもできると思いますし、手術成績の向上に貢献できるかもしれません。整形外科医が集まるプラットフォームe-casebook LIVEでの教育ライブ配信の企画提案を受け、UKAをテーマとして取り上げることにしました。
※1 半月板は膝関節の中にある軟骨で、大腿骨と脛骨の間のクッションの役割をしたり、しっかりと支えて安定させたりする機能がある。

各企業の製品を比べることができるセミナーを実現

ライブ配信では、TKAの手術は自信があるけれどUKAの手術経験が十分でない専門医向けに「もう一つ自分の強みとなる手技を身に着けて欲しい」という想いでこのプログラムを企画しました。実はUKAで使用する人工物は大きく分けて2つの機種があります。これまで多くのUKAのセミナーが開催されてきましたが、ほとんどが企業主催のもので、自社製品に対するマーケティングを含めた内容となっています。e-casebook LIVEは企業スポンサーが入っていないという点を活かしてプログラムは、2つの機種の違い、UKAはどのような患者さんに適応するのか、そして各企業の製品を使用した手術映像を見ながらの解説、という内容にしました。

このライブを視聴することで、UKAの手術経験が十分でない医師でも、自身が納得できる製品を選択し、患者さんに使用してみようと行動を起こしてくれる医師が増えればと思っています。また、1つの機種を使い続けているエキスパート医師が視聴しても、他の機種の症例を見ることで学ぶ点が多い内容になっています。

ライブ配信を行ってみると、現地開催のセミナーと比べ、予想を上回る数の医師の方々にご視聴いただきました。コメントでも高評価をいただき、この手術に高い関心を寄せている方が多くおられ、非常に嬉しかったです。

ライブの価値は編集されていない生の声が聞ける

手技を学ぶ一番いい方法は、生の手術に立ち会って見学することであり、直接手術指導を受けることが理想なのですが、どうしても限界があります。次にできる方法は、解説付きの映像ビデオを見ることです。単に手術のビデオを視聴するだけであれば、それらはインターネット上の動画サイトにも公開されています。

ライブで視聴するメリットは、講師が画面の前にいるため、分からないことがあればその場で質問ができることです。実際、ライブ中にはチャット欄で十数件の質問が寄せられ、ライブ中に回答しました。ビデオを1人で視聴するよりも、ライブでいろいろな方の質問や意見を聞きながら学ぶ方がいいですね。このような質疑応答を通じて参加者のちょっとした本音が表れます。編集されてない言葉が聞けるというのはライブの魅力の一つだと思います。

視聴者は質問することに対して抵抗を感じるかもしれませんが、リアルタイムアンケートを活用して、視聴者からの意見や質問をより多く取り入れることができれば、双方向性が増し、より充実したプログラムになるでしょう。

 

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標準化されてない術式をテーマに教育ライブで発信していきたい

e-casebook LIVEでは、さまざまなテーマの教育コンテンツを提供してもらえると嬉しいです。学会では広範な内容を網羅することが難しいので、このようなプラットフォームを通じて学ぶことは教育上とても有益だと思います。

私自身が今後取り上げたいテーマは、骨切り術(※2)です。骨切り術は手術の方法が標準化されておらず、術者によってコツが異なり、型にはまってない術式です。この手術手技をじっくり解説することで医師にとても役立つと思いますし、高い関心を集めるでしょう。さらにエキスパート医師も少しずつ手法を変えているため、ビデオアーカイブも2、3年経つと内容が異なる可能性があります。こういったリアルなセミナーは視聴者にとって有意義なので、このテーマで企画して発信していきたいです。
※2 変形性膝関節症の治療として行われ、骨を切って矯正して骨をまた癒合させる手術