CASE #15e-casebook LIVE|若手医療従事者向け研究会のオンライン開催

専門医プラットフォームの活用で地域の枠を超えて全国から参加者が集う研究会へ

松丸 祐司

筑波大学 医学医療系 脳神経外科 教授 / 筑波大学附属病院 脳卒中科 診療科長

東京脳卒中の血管内治療セミナー(TSNETS)は、脳血管内治療の技術や知識を関東地域で広く普及させるため、根本繁氏(東京医科歯科大学)と松丸氏によって2007年に立ち上げられた。これまでは現地で開催されてきたが、会場の準備とコストが課題だった。
今年(2023年)の第17回東京脳卒中の血管内治療セミナーは完全Web開催となり、e-casebook LIVEで当日配信とオンデマンド配信(※1)が決定した。e-casebook LIVEは登録制プラットフォームで、すでに登録されている全国の脳神経外科・内科の専門医に本会の告知を行った結果、700人以上の視聴者を集めることができ、昨年と比べ参加者が増加した。
一人でも多くの若手医師に知識を吸収してもらいたいと松丸氏は話す。
※1 研究会終了後に研究会の映像の録画をWebで配信すること。視聴者は好きなタイミングで視聴できる。

記事公開日:2023年12月14日

TSNETSの発足とWeb開催による視聴者層の変化

脳血管内治療は、カテーテルを使って脳の血管病変を治療する方法であり、開頭手術を必要とせず、患者さんへの負担が少ない低侵襲治療です。この治療法は脳卒中の治療の中で新しいものでしたが、今では標準的な治療法となっています。20年前は脳血管内治療の技術や知識が広まっていませんでした。当時は脳血管内治療に関するセミナーは関西に多く、関東でも若手医師向けのセミナーを開催したいと考え、根本繁先生(東京医科歯科大学)と共に「東京脳卒中の血管内治療セミナー(TSNETS)」を立ち上げました。

最初は、東京医科歯科大学の講堂を利用して現地開催をしていました。関東地域の専門医が参加するセミナーなので参加者は最大でも200人ほどでした。しかし、2020年に新型コロナウイルスの影響で初のWeb開催を行い、関東地域に限らず全国各地からの参加が可能になりました。

TSNETSはレクチャー中心のプログラム

TSNETSは教育的な側面が強い研究会です。TSNETSのプログラムは、最初に、特定のテーマに関する研究論文や著作物をまとめて評価する「文献レビュー」を行い、その後、エキスパート医師によるレクチャーをいくつかして、最後に症例検討するという構成です。レクチャーを聴くことが中心で、ディスカッションは比較的少ないです。レクチャーを聴く形式はWeb開催に適しているので、Web開催に舵を切ることにしました。

専門医が登録するe-casebook LIVEで効率的に研究会を周知

私は脳神経外科医で、普段は脳神経外科の診療に携わっています。そして多くの脳神経外科専門医が所属する日本脳神経外科学会にも加入しています。2021年に開催された日本脳神経外科学会第80回学術総会のWeb配信をe-casebook LIVEが行っていたことで、その存在を知りました。e-casebook LIVEは専門医の登録データを保持しているライブ配信プラットフォームです。配信映像や音声のクオリティの高さに加え、すでに登録されている脳神経外科・内科の医師に対して効率的に開催の告知が行える点において、TSNETSにとって大きな利点だと感じ、今回の配信依頼を決めました。

e-casebook LIVEを利用して学会や研究会を視聴するには、まずe-casebookに登録する必要があります。もしかしたら個人情報の登録に抵抗を感じる方もいるかもしれません。私はむしろ、一度登録することでe-casebook LIVEで配信される学会・研究会やWebセミナーなどさまざまな情報が手に入るし、前回配信した学会・研究会が次回もe-casebook LIVEで配信される際はスムーズに参加登録ができる点で、メリットを感じています。

今年のTSNETSは当日配信と後日のオンデマンド配信をe-casebook LIVEで行っており、先日オンデマンド配信が問題なく終了しました。参加者数も700人以上と昨年よりもさらに増え、この数を見れば成功したと言えるでしょう。参加者からはポジティブな反応をいただいています。2025年、私が当番幹事を担当する際にも、再びe-casebook LIVEに配信をお願いしたいと考えています。

主催者視点での学会・研究会のWeb開催の良さ

数年前までは、学会は座長や演者に対して質問や自分の意見を述べる「発言する場」というのが価値でした。若手医師も自らの意見を積極的に述べ、その経験を通じていい意見を言えるように成長していきます。しかし、最近は、周りを気にして意見を述べる参加者が減少し、学会は発言する場ではなく「聴く場」となりました。そうなると若手医師たちは自宅で視聴する方がいいと考えます。この変化により、現在の学会開催形式はWeb開催の方が現実的と言えるでしょう。

実際、学会や研究会の現地開催には大規模な会場を用意する手間と費用がかかり、大会長は悲鳴をあげています。私としては、TSNETSの主催者として、Web開催する方が低コストであり、全国から参加できるので参加人数が増え、有益だと考えます。現地開催とオンデマンド配信を組み合わせて開催したとしても、現地参加者は減る一方で、オンデマンド配信の視聴者が増え、総参加者は増えます。また、懇親会も小規模にでき、主催者としては非常に良いことだと思います。私は、一人でも多くの医師にセミナーを聴いてもらい知識を深めてもらう方が絶対にいいと思っています。

 

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TSNETSのWeb開催での展望

TSNETSをオンラインで開催することには、まだまだ可能性を感じています。前述のとおり、TSNETSはレクチャー中心の会ですが、Web上でディスカッションがスムーズにできるのであれば、症例検討をやりたいと考えています。今年は完全Web開催だったので、症例検討のパートを省略しましたが、ディスカッションを行うことで、TSNETS本来の形を実現できたらと思います。また、TSNETSケースディスカッションなどのスピンオフ企画を行うのも面白いかもしれません。今後もTSNETSを継続し、若手医師向けに脳血管治療に関する最新情報を若手医師に提供し、彼らの知見を向上させる取り組みを続けていきたいです。