CASE #02e-casebook FORUM|ハイレベルなPCI治療例をクラウドで共有

症例ライブラリーで世界の治療技術の底上げをめざす

角辻 暁

大阪大学大学院医学系研究科 国際循環器学寄附講座 寄附講座教授

国や地域の環境によって異なる専門医の治療経験の格差は、一般の患者さんに届く医療格差に直結する。
国内外で自身が手がけた膨大な治療例をe-casebookで公開する角辻氏の活動は「世界の心血管治療レベルの底上げ」へ向かう一筋の光となるか。

記事公開日:2018年7月2日
最終更新日:2023年11月20日

日本のPCI治療は世界最高水準

「困難な手術」というと、最新医療を求めて海外に渡航するのが一般的なイメージだと思いますが、心血管カテーテルを用いた冠動脈インターベンション(PCI)という治療においては、欧米やドイツなど医療水準の高い他国と比べても、日本の技術が圧倒的に優れています。日本では世界に先駆けて「血管内超音波(IVUS)」が保険適応となったことが大きな理由だと思います。カテーテルの先に超音波機能を持たせたIVUSが保健診療で使用可能になったことで治療結果が改善しただけでなく、治療そのものの理解が深まったことが日本型PCI治療が世界基準のPCI治療からはるかに高度な治療になりえた大きな理由と思われます。

高いPCI治療水準が患者さんのメリットに直結する

PCI治療では、カテーテルと言われる細い管を手首や足の付け根から血管内に挿入して心臓の血管の病気の部分を治療します。治療そのものは3時間程度で完了し、入院期間が短いことが特徴です。多くの患者さんは手術の翌日には普通に歩いて退院することができます。一方、PCI治療が困難と判断された患者さんは「投薬治療」もしくは「開胸手術」という選択になります。開胸手術では患者さんの身体の負担は重く長い入院期間が必要となり、投薬治療では心臓血管の病気の部分への治療は行われないので心臓の筋肉への血液の供給は制限されたままとなります。一般的に、治療困難と判断されるような患者さんの状況や病気の状況でも、 PCI治療が可能になれば患者さんのメリットはとても大きいことは言うまでもありません。

国際循環器学寄附講座の立ち上げ

個人的には2004年にマレーシアでIVUSを用いた複雑なPCI治療をする機会を得て以来、日本国内だけでなく海外での活動を行うようになりました。上記のマレーシアでの治療の結果やこの時期に招かれた学会での治療成績の報告を聞いたアジア・中東の医師からの招聘を受け、世界各国でPCI治療を行い、同分野の教育的な仕事にも携わるようになりました。この活動を通じて、個人的な経験知識の増加・PCI治療レベルの向上だけでなく、「その国や地域の医師や医療スタッフに対するPCI治療の教育的貢献」、そして「日本製の治療器具や装置の価値を高めマーケットを拡大する企業としてのメリット」、全てにおいてポジティブな価値を持つことに気付きました。しかし、通常の病院勤務でこれらの活動を行うことには限界があり(一般病院では病院を離れることに制限がある)、さらには個人の業務・行動では継続性に欠ける側面があります。これらの問題を解決するためには、通常の病院勤務ではなく、長期的な継続性を持つ組織が必要だと考え、今の国際循環器学寄附講座を大阪大学に設立することになりました。

知識の共有がレベルアップの第一歩

(2018年)現在、国際循環器学寄附講座として世界各国での教育的な仕事を行っていますが、そこで直面している大きな問題が「知識を共有するための時間の制限」です。実は、日本国内の同じ病院に勤務している医師の間でも、通常業務で忙しいため「共有できる時間」はカンファレンスなどに限られています。これはすなわち「共有できる知識」が限られることにつながっています。そして、この「知識を共有するための時間の制限」は海外で治療する際にはさらに大きな問題となります。通常の海外案件を例とすると、一つの病院で行うプログラムは1~2日かかります。業務の多くの時間は実際の治療を行っており、その途中のポイントでは説明を行うものの断片的な説明になってしまいます。さらに、継続的なプログラムであればいいのですが、初対面で一緒に仕事する場合は相手のレベルが分かっていない状況で「相互理解・知識共有」を試みますが、根本的に限界があります。この問題を解決するには「知識を共有するための時間の共有」が必須です。それを実現化してくれるのが現代のネットを使った情報共有サービス・システムになります。

e-casebookの導入と活用

知識・情報の共有と書きましたが、私たちの治療における「知識・情報」は非常に詳細な画像情報に基づいています。今の時代、ある程度のクオリティの画像情報を共有することはさほど難しいことではありません。YouTubeですら「ある程度のレベル」であれば画像情報の共有が可能です。しかし、私たちが求める「世界最高レベル」のクオリティを提供してくれるサービスは今まで皆無でした。

e-casebookはこれまでの努力によって「非常に高品質の画像」を「十分な速度」で提供することができています。私たちのニーズに応えてくれる唯一のサービスとなっています。

今世界でのPCI治療は増加の一途をたどっています。それは患者さんが低侵襲治療を求めているからです。世界のPCI治療において先行している私たちの知識や経験を共有し「PCI治療が困難だから」「危険だから」という理由でPCI治療ができない患者さんにもPCI治療を安全かつ有効に実施するため、 e-casebookは非常に有力なサービスであることは間違いありません。

実は、(2018年)現在でもe-casebookは完全に成熟したとは言えない部分があります。しかし、初めに代表・菅原俊子さんからe-casebookのアイデアと具体案を見せてもらい、2012年からは国際循環器学寄附講座の前身である先進心血管治療学寄附講座で、スタッフ間の情報共有ツールとしてe-casebookを日常的に使用してきた経験から、「e-casebookの進化はかなり進んでいる」と断言できます。今後は世界中の医師・コメディカルとe-casebookを通じて情報を共有し、e-casebookと共に世界のPCI治療のレベル向上に貢献できればと思っています。

 

dr_sumitsuji_img.jpg

 

e-casebookのもたらす未来

e-casebookでは FORUMという形態の新しいサービスを開始しました。FORUMではこれまでの高品質画像情報だけでなく「プレゼンテーション」を併用しリンクすることにより、さらに深い知識や経験の共有を行おうとしています。PCI治療の最も根底にある「力学的検討」をプレゼンテーションと具体例を絡めて提示し、知識・経験の共有を行うことで世界のPCI治療のレベルの向上、さらにはPCI治療そのものへの理解の向上が見込めます。

一つ一つの症例に隠された真実をも共有できるサービス、それがe-casebook FORUMだと思います。今後は世界中の多くの医師・コメディカルと一緒に最高のPCI治療を行う、そのための議論をe-casebookで行いたいと思っています。