CASE #04e-casebook FORUM|冠動脈カテーテルインターベンション専門医の教育

「戦略的カテーテル治療」をオンラインで指導

土金 悦夫

豊橋ハートセンター 循環器内科 スーパーバイザー (取材当時:豊橋ハートセンター 循環器内科 部長)

今年(2018 年)4月にいち早くe-casebook FORUMで「土金塾」を立ち上げた土金氏は、多い時には年間200例以上の心血管の冠動脈の慢性完全閉塞(CTO)の患者さんに対してカテーテル治療を手掛けてきた第一人者だ。国内外でのライブ手術の開催など後継専門医の教育も熱心に取り組んでおり、外部の若手医師を豊橋ハートセンターに招き入れ、実際に手技の指導を行うワークショップを開催してきた。
経験の積み重ねからなる治療の「戦略」を、幅広い医師たちに伝授したいと願う土金氏のフォーラムは、多くの参加者で賑わっている。

記事公開日:2018年9月21日
最終更新日:2023年11月20日

「ショータイム」にとどまらない専門医教育

私が力を注いでいるのは若手医師の教育です。従来の研究会のスタイルだと、治療方法をただ見てもらうだけで、どうしてもショータイムになってしまい、「すごい!」と感動させられるものの、教育的な意味は薄いです。そこで考えたのが、私が口頭で指導しながら若手医師に実際に手術を行ってもらい、その様子を他の若手医師に見てもらうワークショップです。一つの症例をみんなで共有して、一人一人の経験値を上げるのが目的で、この8年間で100回以上実施しています。

空間の制約をオンラインフォーラムで解消

3年前にe-casebook FORUMを開催しないかというオファーがあったとき、このシステムを積極的に活用すべきだと感じました。研究会のライブ手術で術前症例を紹介したことがありましたが、私が戦略を述べて終わってしまい一方通行でした。しかし、フォーラムの形式にすれば双方向のコミュニケーションが可能になり、一方通行ではなくなります。以前からライブ手術の資料をオンラインにアップロードしていたため、インターネット上での情報共有に対する抵抗は全くありませんでした。

オンラインでの活動のメリットは、みんなが集まれる「場所」を提供できることです。さまざまな制約があり研究会に参加できない医師もいます。特に若手医師は院内での臨床業務に手一杯で外出が難しいことがあります。通常のリアルの研究会では会場に収容できる人数に限界がある一方、e-casebook FORUMはインターネット環境さえ整っていれば世界中のどこからでも参加し閲覧できるので非常に便利な「場所」です。

腰を据えた症例検証で経験値を上げる

質問をする側からすると、オンサイト(現場)で直接私に質問する際はある意味で覚悟が必要かと思います。実際、若手医師から忙しい私に質問することは気後れすると聞いたことがあります。しかし、オンラインの場合、時間を気にせず質問を練り直し、派生した質問もできます。治療以前に「そもそもこの治療は本当に必要なのか」といった根本的な疑問に立ち返ったディスカッションも可能です。

日常の現場で一旦治療方針が決まると、「行うのみ」の一択で、限られた勤務時間内での判断が正しかったかどうか振り返る余裕がありません。e-casebook FORUMを利用すれば、自分のペースで症例をじっくり検証し、いつでも相談や情報共有ができます。メンバーになる医師が増えれば増えるほど、アップロードされる症例が多様かつ増加するため、全体的な経験値が上がり、良い結果につながると考えています。

オープンフォーラムで成熟した議論を

e-casebook FORUMで土金塾がスタートし、最初に紹介した症例は「Bidirectional Approach(双方向性アプローチ)不成功後のLAD(心血管の左前下行枝) CTO」でした。これは今年3月に行われた比較的難しい治療で、手技に慣れた医師でも難しい症例でした。ましてや若手医師にとってはさらに難しく、ハードルが高いからこそディスカッションの質が上がります。2番目以降の症例は私のフォーラムの参加者が症例紹介をする形で、基本的にはディスカッションの最初と最後に私がコメントをします。メンバー全員が同時刻にディスカッションを始めるわけではないので、ある程度時間をおかないと成熟した議論にはなりません。月に1つの症例をアップする頻度でも十分に価値があると考えています。

(2018 年)現在のフォーラム参加者は概ね予想通りの人数です。以前は約3年間、限定公開のe-casebook GROUPで土金塾を行っていましたが、意見を書き込む人はほぼ決まっていました。オープンなe-casebook FORUMになったことで、今回初めて土金塾に参加する人など、さまざま人が意見を書き込んでくれており、私も楽しんでいます。

画像や動画のクオリティーはe-casebook FORUMの強み

通常、私は夜の空き時間にe-casebook FORUMをチェックしています。画像や動画が必要な教育コンテンツだと、日中にカメラで現場の撮影をしてもらったりと、大掛かりで大変ですが、e-casebook FORUMは手持ちのデータを直接アップできるなど、導入が非常に簡便です。初期のe-casebook から、国際基準規格の医療用データ様式であるDICOM(ダイコム)動画の使用について随時改良されているため、ディスカッションを行う上では十分なクオリティーになっていると思います。細かい血管の話になると、解像度的に判断が難しい部分があるものの、画像や動画データを共有して議論するためのシステムとしては非常に機能的かつ扱いやすいです。画像・動画を扱う医師であればぜひe-casebook FORUMを試してほしいです。

 

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垣根なき「戦略的治療」を共有

私も年を重ね、これからやるべきことは教育だと思います。私が一人で治療できる患者さんは限られますが、治療できる医師を増やせば、より多くの患者さんを救えるでしょう。今はガイドワイヤーなどの道具が増え、それによりアプローチも多様化し、戦術も多岐に渡っています。そのため幅広い症例を募ることができるe-casebook FORUMがとても有効なのです。

カテーテル治療、特に待機的な冠動脈慢性完全閉塞病変を扱う上で大事なのは「安全」「手技成功」「効率」の3つだと考えています。ベテラン医師はこの3つをクリアする最善の戦略パターンを身につけていますが、若い医師は経験が不足しており、最初から自分で戦略を立てるのは難しいです。また、頭で戦術がきちんと組めたとしても、実際の手技も大事です。私たち経験豊富な医師が正しいと思うやり方を、多くの医師に引き継いでいくことが大切だと思います。

良い治療をみんなで共有する中で、自由で活発な意見交換が妨げられてはなりません。オンラインのe-casebook FORUMなら、派閥や学閥といった人間関係の壁を取り払い、若い医師が自由に治療方針を選び、いい影響を与えられると強く信じています。