CASE #08e-casebook LIVE|新治療「TAVI」の教育的ビデオ配信

リアルタイム映像配信だからこそできる双方向の経験共有

渡邊 雄介

帝京大学医学部附属病院 循環器内科 准教授(取材当時:帝京大学医学部附属病院 循環器内科 講師)

渡邉氏は、帝京大学のTAVI(※1)チームを立ち上げ、さらにTAVIのプロクター(指導医)として新規TAVI施設の指導を行っている。このたびe-casebook LIVEでのライブコンテンツ「TAVI症例について考える」を立ち上げた。
まだまだ新しい治療法であるTAVIを、若手医師に伝授するだけでなく、治療に慣れている医師の日常診療にも役立つコンテンツの提供を目指す。
※1 Transcatheter Aortic Valve Implantation の略。 経カテーテル的大動脈弁植え込み術。胸を開かず、心臓が動いている状態でカテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に留置する治療法

記事公開日:2020年2月26日
最終更新日:2023年11月20日

若手医師に広めたい新治療「TAVI」

筑波大学医学部卒業後、研修医として経験を積み、榊原記念病院で循環器診療に従事しました。その後、フランスのパリ南心臓センターで留学し主にTAVIについて学び、2013年に帝京大学に所属して以来、院内のTAVIチームを立ち上げ、新しいTAVI施設のプロクターとして活動しています。

TAVIは「大動脈弁狭窄症」と呼ばれる重症な疾患に対する新たなカテーテル治療法であり、TAVIを学びたい医師にとって学習の場が少ないことが課題でした。そこでe-casebookというプラットフォームに出会いました。実は以前から学会を通じて、e-casebookを使用して症例検討ができることを知っていました。2019年4月から「e-casebook LIVE」というライブ配信サービスが開始されたのをFacebookで知り、同年8月には、木下順久先生(豊橋ハートセンター)と上妻謙先生(帝京大学)が行った「(心臓血管である)分岐部病変にこだわる」というワークショップのライブ配信で手術者(オペレーター)として参加しました。その時に、e-casebookチームから「TAVIに関する教育ライブの配信を行いませんか?」と提案を受けました。その際に思い浮かんだのは、TAVIの分野で有名な白井伸一先生(小倉記念病院)とタッグを組んで、TAVIに関連する教育的なコンテンツを配信することで、自分も学びながら楽しみつつ情報発信をする、というアイデアでした。

実現したのが、同年12月にスタートした、白井先生と私の「TAVI症例について考える #01 大動脈弁狭窄症のWire弁通過と左室Wire留置を極める」という症例検討会のライブ配信です。このライブは、過去に行ったTAVI手術の映像を見ながら、白井先生と私で解説する内容になっています。

 

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リアルタイム配信で双方向の議論の場に

Web講演会でプレゼン発表をした経験もあり、e-casebook LIVEでのライブ配信において「オンラインだから」という理由で特別に心理的ハードルは感じませんでした。今回のライブ配信で重点を置いたのは「リアルタイムならではの双方向での経験共有」です。単なる「一方向のレクチャー動画」ではなく、TAVIのエキスパートである白井先生と一緒に症例解説を進め、画像や手術動画を組み合わせながらお互いの考えや手法について議論することで、通常の講義以上の価値を提供できると考えました。TAVIをこれから始める、もしくは始めたばかりの医師だけでなく、TAVI治療に慣れている医師にも日常診療でさらに役立つように、より細かい手技に焦点を当てた内容になっています。実際、チャット機能を利用して視聴者からの質問に回答したり、リアルタイムでアンケートを実施したりすることで、視聴者とインタラクティブな時間を共有できたという手応えを感じました。

オンライン体験とアーカイブで2つのメリット

わざわざ学会に参加しなくても、学会に参加したのと同等の経験ができるのが e-casebook LIVEの最大のメリットです。自宅から手術のライブ中継を視聴し、オペレーターの考え方や手技について自由な意見交換をしながら参加できるのはとてもいいことだと思います。

通常の現地開催の学会の場合、同じカテーテルというジャンルでもStructure(心構造)、Coronary(冠動脈)、Peripheral(末梢血管)など分野ごとに会場が分かれており、どうしても見逃してしまう講演や発表があります。それもオンラインにすることで、アーカイブビデオも残り、後から時間や場所を選ばず、興味のある分野の動画を視聴できるようになりました。これは最も大きな利点です。

SHD(構造的心疾患)治療は新しく、まだまだこれから発展していく分野なので、症例数が多くあるわけではありません。だからこそ e-casebook LIVEのサービスにあるような、アーカイブビデオで経験をシェアすることが非常に重要です。TAVIだけでなく、Mitra Clip(経皮的僧帽弁形成術)、WATCHMAN(左心耳閉鎖システム)、PFO(卵円孔開存)、ASD(心房中隔欠損症)に対するカテーテル治療など、より細かな手技動画をWeb上に蓄積しておけば、自身が担当した患者さんの治療で困った際にすぐに症例を参照できとても便利です。リアルな体験とアーカイブ、双方のメリットを兼ね備えたe-casebook LIVEは、情報を発信する側、情報を受ける側の双方にとって大事なプラットフォームであると思います。

 

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ビデオライブラリーやオープンなコンテンツ提供も

e-casebook LIVEがビデオライブラリーとして効果的に利用できるように、コンテンツや手技ごとに分類し、検索して目的の動画にたどり着ける仕組みがあるといいと思います。特に、SHD治療の分野では非常に大事になってくるでしょう。

私個人の意見としては、医師だけではなく患者さんにも視聴してもらえるようなオープンコンテンツを提供できるようになってほしいですね。現状ではe-casebook LIVEの視聴対象が医師や医療従事者に限られていますが、それに加えて一般の患者さん向けの配信も行えるといいでしょう。実際のカテーテル治療の様子は、治療を受ける患者さんにとっても興味深いものです。このような配信があれば、視聴者も増え、患者さんの精神的な安定にもつながれば、e-casebook LIVEの可能性も今後ますます高まっていくのではないでしょうか。