DOCTOR'S VOICES

CASE#012手術も教育もオープンに。細分化された整形外科専門医の教育

オンライン手術生中継で、世界のスタンダードを全国配信

アメリカで体験した人工関節置換術に感動し、2004年10月に当時日本初の独立した人工関節置換術施設である湘南鎌倉人工関節センターを立ち上げた平川氏。若手医師の技術の底上げとしてSKJRCセミナーを開講し、エキスパート講師たちを招き人工関節の最新情報をもとにディスカッションを行う。日本の整形外科領域に見られがちな「閉じた」手術室を解放すべく、e-casebook LIVEでオープンな手術ライブ配信を行ったり、レクチャービデオライブラリーを公開中。若手医師にはどんどん刺激を受けてもらいたいと平川氏は話す。
※人工関節置換術:骨と骨を繋ぐ関節のうち、傷ついた部分を取り除き、人工関節部品に置き換える手術。
平川和男先生

湘南鎌倉人工関節センター 院長

平川 和男 氏

最先端の人工関節置換術をアメリカで経験

1993~1996年までアメリカクリーブランドクリニック留学し、その間に得た人工関節置換術の知識と経験は僕にとって大きな衝撃でした。日本とあまりにかけ離れた技術の高さに圧倒されたのです。
人工関節置換術の手術を受ける患者さんの多くは高齢者です。股関節は平均62歳、膝関節は平均72歳で手術を受けます。当時、日本で人工関節置換術を受けた患者さんは2、3ヶ月、下手をすると半年も入院していました。病院のようにいろいろな人が出入りする場所に長期にわたり滞在することで、手術とは無関係の感染症リスクが上がるため、早期退院は整形外科領域にとって命題でした。
一方当時のアメリカでは、患者さんは2週間で退院していたのです。
なぜこれだけの差がでるのか。理由のひとつには、保険の事情もあると思います。アメリカは民間保険ですから、保険会社にとっては患者さんをなるべく早く退院させたい。それ以上に、アメリカでは患者さんのQOLを高めるため、いかに入院期間を短くするか学会などで活発に議論をしていました。この切磋琢磨の結果が入院期間の短縮につながったのだと思います。
またアメリカでは、献体を用いた医師や医療技術者の技術トレーニング、キャダバートレーニングが盛んでした。10~20例を経験して初めて実際の患者さんに手術をすることになり、未熟な医師による医療ミスが防げます。結果的に業界全体の技術力も高レベルなものになり、当時日本では3時間ほどかけていた手術を、彼らは1時間以内で終わらせていました。しかもその手術映像は、学会や教育現場で活用されている。スピーディーかつ人に見せられる水準の手術が日常的に行われていたのです。

僕がアメリカで見聞きしたこのような医療技術や環境を世界標準として、日本でも同じクオリティーの手術を行えるようにしたいという志を抱き、日本に帰国しました。

日本初、人工関節置換術に特化した施設を開院

アメリカでの経験をもとに、日本でも早期退院、早期社会復帰を広めようとあらゆる人に話をしましたが、当初は誰一人として相手にしてもらえませんでした。「早く退院させた矢先に何か起こったらどうするんだ」とみんな考えるわけです。それでも、患者さんにとって必要な医療体制であると信じ、海外の学会で発表し、日本語でも論文を書いては発表をするという活動を積み重ねました。
徐々に周りの理解を得ることができ、2000年には日本でもMIS(最小侵襲手術)を導入して入院期間が10日前後になりました。しかしこの時点でアメリカでは既に日帰り手術が始まっており、日本はなかなか同じ土俵に立つことが難しい状態でした。

整形外科の守備範囲は、首から足先までと広く、1人の整形外科医が一生かかって均等に施術にあたっても、どの領域も手術が上手にならない。そこに日本の技術力の限界を感じていました。一方海外では、整形外科の中で医師の専門化が一般的となっており、例えば背骨の専門医、肩の専門医、股関節の専門医、膝の専門医といったように分かれて施術を行っています。
自分の使命は一体何なのかと考えたとき、「一生をかけて人工関節という分野にフォーカスし、それをとにかく海外のスタンダードに近づけること」であると確信し、2004年10月、湘南鎌倉人工関節センターを開院しました。当時、人工関節置換術のみを行う独立した施設は日本初でした。
また、整形外科全体の技術向上を目指して、前述の技術トレーニング、キャダバートレーニングが日本でも行われるよう多くの先生方と一緒に交渉し、これは2018年にようやく認可されました。

オープンで自由な議論の場、SKJRCセミナー

整形外科領域の学会は毎年開催されるのですが、規模が大きいため、若い医師たちが発言しにくい雰囲気があります。もっと小・中規模の集まりで自由に質問や討論ができる場を、と考え2012年から「SKJRCセミナー」をスタートしました。年に1回、エキスパートの先生方を当院にお招きして、2日に渡ってディスカッションをしていただきます。参加者は40人前後。エキスパート同士の情報交換の場であり、若手医師たちにとっては短期間で人工関節の最前線が学べる、内容の濃い2日間になっていると思います。実際、僕自身もそのディスカッションを聞くことで、知らなかった情報を得ることが多々あります。

このセミナーのメニューに、整形外科では珍しい「ライブサージャリー(外科手術ライブ)」というセッションを設けています。僕が研修医の頃に見たアメリカの手術ビデオから思いつきました。アメリカの先生の手術はとても早くサクサクやってのける。これに感動しました。当時、自分がこのような分野に進むかまだ決めていませんでしたが、もし整形外科に進むなら、誰に見られても恥ずかしくない手術ができるようになりたい、と強く思ったのです。若い医師に向けてエキスパートの手技をオープンにすることで、彼らの意欲が向上し、将来は整形外科を目指したいと思ってもらえたら非常にありがたいことです。

「見せる術技」で知見を共有する

日本の整形外科の手術室はいわゆる密室状態で、情報の共有という点では非常に閉鎖的な世界であると言えます。しかし、人工関節ひとつとっても作る技術者によってデザインやコンセプトが違うし、対応する手術のコツなんかも当然違ってくるので、そういった知見を共有していかないと、業界全体の技術も上がらない。それに僕は、プロの医師なら人にきちんと見せられる手術ができないとダメだと思っています。
2019年10月e-casebook上で、整形外科では初となる、手術ライブの全国生配信をしました。誰かわからない人に自分の手技を見られている、と感じながら僕も大汗かいてやりました。50分ほどで手術は終わりましたが、過去に手術ライブをたくさん経験させてもらったからこそ、今こうして公開できるレベルになっています。もっと時間をかけて大変な思いで手術に挑んでいる方は、経験している症例数が少ないからっていうこともあるでしょうし、本当にきちんと教えてもらったことがない。教科書だけを見て、見よう見まねでするとかね。若い医師や、これから人工関節置換術の道へ進もうと思っている医師の方々に、リアルな手技を包み隠さず見せて、もっと技術を分かち合って、さまざまな症例別のコツなんかも伝えていければいいですね。
まだまだ整形外科には手術ライブという風土がないので、このようなライブ配信がどんどん認知されていってほしいと考えています。ただ、平日だと先生方はお忙しいので、どういう時間帯でやるのが一番いいのか考える必要があります。e-casebookライブはチャット機能やアンケート機能もついているので、今後はこのような機能を積極的に活用し、参加者と活発な意見交換ができるといいなと思います。

平川和男先生

手術に必要な知識を得るための「教科書」をオンラインで

世の中には整形外科書籍がたくさん売られており、挿絵を使って説明されていますが、手技の全てを網羅しているわけではなく、これを見ただけで手術ができるようになるとは思いません。そこでe-casebook LIVE / VIDEO整形外科では、人工股関節置換術、人工膝関節置換術、人工肩関節置換術のレクチャービデオをたくさん用意し無料公開しています。1つの病院に、例えば肩のけがや骨折なんて毎週数十件も来ないと思います。そういう意味で、貴重なビデオがここにありますし、私たちが行っているようなルーティンワークでできるようなものもあります。最終目標としては、モバイルなどでいつでもどこでも見られる、「インターネット上の教科書」を作りたいなと思っています。それも専門医による解説付きで。
患者さんの立場になったら、手術してくれるのは病院じゃありません。先生たちです。その先生たちの手技がどんどんレベルアップするサービス。e-casebookがそんな存在になってくれるよう期待しています。